大正から続く親子三代の美容室
門前仲町駅から徒歩およそ8分、永代橋のそばに構えるさかい美容室は、大正時代に祖母が開いた店を起点に三代にわたって営まれてきた。カットやパーマ、ブローに加え、髪と頭皮への負担を抑えた天然成分ヘナによるカラーリングを扱っており、年齢とともに変わる髪質への対応も日常的に行っている。完全予約制のため、施術中は一対一の空間で過ごせる。落ち着いた年代の女性客が中心で、長い付き合いになっている方が多いという。
個人的には、永代通り沿いという立地の分かりやすさが印象的だった。東京メトロ東西線と都営大江戸線の2路線が使えるうえ、佐賀一丁目バス停からもすぐの場所にある。周辺は静かな街並みで、散歩がてら足を運ぶ常連客もいるようだ。日々の手入れがしやすいスタイル設計を軸に据えている点が、リピーターの定着につながっている。
黄綬褒章・現代の名工――公的評価が裏づける着付けの腕
さかい美容室の酒井カヨコは一級着付け技能士の資格を持ち、2007年に東京マイスター、2010年に厚生労働省の現代の名工に選出されている。2016年には黄綬褒章を受章。1998年の第25回全日本技術選手権大会・花嫁化粧着付け競技では日本大賞を獲得しており、白無垢の着付け技術は競技の場でも実証済みだ。2013年には厚生労働省理容師美容師養成功労者表彰も受けている。
七五三で訪れた家族からは「子どもが長時間着ていても苦しがらなかった」という声が寄せられているそうだ。振袖、留袖、訪問着、袴など着物の種類を問わず対応し、独自に開発した道具と技法で身体のラインに沿った仕上がりを追求している。若い世代が着物に触れる際の身体的な負担を減らす工夫にも力を入れており、成人式や卒業式の依頼は毎年途切れない。
地髪で結う日本髪と場面に合わせたヘアセット
さかい美容室が長年守り続けている技術のひとつが、地髪による日本髪の結い上げだ。酒井カヨコはタカラ美容専門学校で教頭を務めたほか、日本着付学術会の芸術委員・名人、全日本美容講師会の着付け部門最高師範、東京美容家集団の最高指導委員など複数の要職を歴任してきた。2000年には日本理容美容教育センターの教科書編纂委員として技術の体系化にも関わっている。
結婚式の列席やお茶会に向けた控えめなまとめ髪から、夏の花火大会に合わせた浴衣スタイルまで、求められる雰囲気は一件ごとに異なる。訪問着や付け下げ、小紋といった着物の格や柄行きを見ながらバランスを取るのが酒井の流儀で、ヘアと着付けを同じ人間が一貫して仕上げるからこそ全体の統一感が出る。「着物に合った髪型を任せきりにできる」と感じる利用者も多いようだ。
当日までの段取りと予約の流れ
着付けを依頼する場合、およそ1週間前までに着装品一式を本人が持ち込む流れになっている。足袋・肌着・裾よけ・長襦袢・紐5本・伊達じめ2本・帯揚・帯締め・草履・タオル3〜4本・帯など必要品はリストで案内され、不足する小物は貸し出しで補える。髪の長さや着物の種類によって料金が変わるため、事前の電話相談で詳細を詰めていく形だ。
式典が早朝に始まるケースでは、通常の営業時間より前から店を開けて対応してくれる。問い合わせの受付時間は9時から20時まで。「初めてでも何を準備すればいいか電話で丁寧に教えてもらえた」という声が目立つ。完全予約制ゆえ飛び込みは難しいが、そのぶん当日の時間配分に余裕が生まれ、慌ただしさとは無縁の支度が進む。


